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萌えアニメは後付け!?『舞-HiME』小原正和監督

2019.07.26

本日は、『舞-HiME』につきまして、作品を手がけられた小原正和監督に、いろいろと作品秘話を伺いたいと思います!
放送されて15年以上が経過しているにも関わらず、熱心なファンが多い作品の魅力に迫ります。

取材=仕掛け番長(@maron_rikiya

萌えアニメは後付け!?

仕掛け番長

まずはじめになんですが、サンライズ初の萌えアニメとして『舞-HiME』という作品をなぜ作ろうと思ったかって、伺ってもよろしいでしょうか?

小原正和さん

スイマセン、萌えアニメというのは広報戦略上使われている言葉で、後付けなんですよ。

仕掛け番長

え〜っっっっっ!!!!!!!!!!

小原正和さん

もともと「美少女によるバトルロワイヤルアクション」という企画なんですね、実は。。

仕掛け番長

では、そもそも最初から、そんなバトルロワイアルといった、あの後半のストーリーがあってという企画だったんですね?ちょっと衝撃ですけど。

小原正和さん

シリーズ後半の流れが本来のコンセプトでした。でも26本バトルというのはちょっと長いですからね。なので、シナリオ会議で(シリーズ構成の)吉野弘幸さんと相談して、本懐を後半に圧縮して、前半は化け物退治やバラエティみたいな、別の事をやろうという事になりました。
そのバラエティみたいな部分に、当時未だ新しかった「萌え」というワードが付いたんだと思います。

仕掛け番長

当時見てたんですけど、そういった流れを想定していなくて、萌えアニメのお約束が全部入ってるので、本当に衝撃的です。

小原正和さん

そういう意味では、前半はフェイクなんですが、本気のフェイクですからね。「属性」とか、「百合」とか、その界隈のトレンドも勉強しつつ、自分たちなりに形にしていった感じです。

小原正和さん

でも厳密に言うと、その当時「萌えアニメ」と言われていた物とは、やはりちょっと違うと思いますね。本来の物はもっと少女漫画的だし、身体の描き方もイカみたいにフニャフニャで。うちのキャラは割と造形が立体的だし、話の方も(作品の宣言となる)第一話は正攻法のアクションですから。

小原正和さん

構成が大まかに決まったところから、一話の第一稿に入ってもらったんですが、一番最初に上がってきたのはそれこそ主人公が食パンくわえて走ってくるような内容だったんですよ。そこから大胆に方針転換して今の形になったんですが、(元のシナリオでは)なつきとか命の話し言葉も、今と全然違っていたと思います。

仕掛け番長

なつきや命の性格が後半で前半のイメージと大きく変わる事なども最初から企画としてあったのでしょうか?

小原正和さん

「出てくる女の子たちの可愛さにこだわる」というのは当然の命題なんですが、それだけではなく、その負の部分も含めて多面的な描写を目指しました。ただ、その結果、なんかオモシロ人間大集合みたいになってしまったような・・。たぶん、負の部分の解釈を、その人のダークサイドというよりは、アホな部分とか、恥ずかしい部分に偏らせてしまったからだと思います。膨らませているうちに、僕も(キャラデザインの)久行宏和さんも吉野さんも、なんかオモシロくなってきちゃったんですね。

仕掛け番長

そういったところも含めて、やっぱり深いですし、各キャラクター毎に伏線をかなり多く張ってあるんですよね?

小原正和さん

バトロワ展開が後半に圧縮できたので、前半でキャラの来歴や個性、人物同士の因縁などをきちんと描く余裕ができました。伏線なんかもそうですね

仕掛け番長

未だに頭が混乱しているんで、ちょっと、質問の仕方を困っているんですが、前半でドロップアウトしてしまうキャラもいたと思います。あれは、どういう意図があったんですか?後半には、そもそもいなかったんですか?

小原正和さん

後半は漠然とした流れが決めてあっただけで、キャラの出し入れなどの細かい調整は可能でした。前半なかばのあかねちゃんの回は、シナリオを持ってきた吉野さんがもうニコニコで嬉しそう~な顔してたのを憶えてます。

仕掛け番長

ありがとうございます!これは、かなりの衝撃ですね。
(C)サンライズ

小原正和さん

うらやましいなぁ〜。そういう経験してないからな〜。全部ストーリーを知ってしまっていると(笑)
サンライズの資料課に多分、初期の企画書とか設定内容が残っていると思うので、見てみるといいんじゃないですか。
そもそも、最初、『舞-HiME』ってタイトルじゃなくて、なんか横文字の小洒落たタイトルだったと思いますよ。

仕掛け番長

えぇ〜!!

小原正和さん

プロットやシナリオに入っていくよりも、もっと前段階で重ねていた打ち合わせで、ベースにある和風伝奇テイストや、例のシリーズ構成上のトリック、正式タイトルも決まっていったんです。

仕掛け番長

『舞-HiME』というタイトルもイメージが、パッと入ってくる凄くいいタイトルだと思うんですけど、最初違ったのは衝撃です。
そんな衝撃の中で聞くのも変ではありますが、この中で一番お気に入りのヒロインは、いらっしゃるんですか?

小原正和さん

基本的には、全員好きなんですけどね。

仕掛け番長

個性豊かで、みんな良いですもんね。

小原正和さん

全員変人ですけどね(笑)

仕掛け番長

(笑)

小原正和さん

誰かが特別じゃないんですけど、あえて言うなら、深優・グリーアとかですかね?

仕掛け番長

それは、なぜなんですか?

小原正和さん

メカですからね。体から剣とか、ミサイルまで出るっていう・・・脇なので登場場面が限られていて、もうちょっとフィーチャーしたかったなっていう思いもあって。もともとメカアニメがやりたくてこの業界に入ったわけだし。この子が主役の作品があったら、楽しいと思うんですが。

小原正和さん

あとは珠洲城遥ですかね。憎たらしい敵役になりがちな個性の子ですけど、他人からの評価に屈することのない信念の持ち主として描きました。

仕掛け番長

僕の中では、すごくあの個性が強いキャラの中で、最終的にバトルロワイヤルさせるっていうところに苦しみがあるのかな?と思ってたんですよ。でも、全然違いますよね?実際に、見てる人たちも、後半が先で、キャラにバトルロワイヤルされる前提で作ってたなんて思っていないですよ。

小原正和さん

それは羨ましいなぁ(笑)。僕もアニメファンの一人として、同じ気持ちになってみたいです。

仕掛け番長

特に、当時、萌えアニメとか、そんなバトルロワイヤルってアニメは、この当時無かったでしたよね?そんな変化するアニメって無いですよね?

小原正和さん

いや・・・スイマセン、この企画は『仮面ライダー龍騎』とか、それこそ映画『バトルロワイアル』みたいなのを、女の子チャンでやればいいんじゃね的なところから始まってるらしいので、むしろ他からの影響はかなりあるんですよ。

仕掛け番長

冒頭から、殺し合いを彷彿とさせる作品はありましたけど、そこまでも切り返しをする作品は無かったような。そういった意味でも新しいですよね。

仕掛け番長

この後から、殺し合いなどがブームになっていったような印象があります。その当時、反響もすごかったんじゃないですか?

小原正和さん

それがリアルタイムではあんまり分からなかったんですよ。当時、製作は結構先行してて、オールカラーでアフレコしてました。8スタの制作陣はとんでもなく優秀なメンツが揃っていたので、オンエアが始まるころには、こっちはシリーズ作業が結構終わってるっていう・・・。

小原正和さん

ただ、某アニメイベントなんかで、『舞-HiME』の予告映像をかけた時にはあまり注目されなかったのに、『舞-乙HiME』の時にはお客さんがスクリーンのほうにゾローッと動きましたからね。それで、ああ、もしかしたら人気出たのかなあっていう・・・。

仕掛け番長

いやぁ〜、ホントに衝撃的なんですが、作品自体、萌えアニメとして、当時のおもしろい部分を全部持ってきていて、それで十分楽しめる状態だったにも関わらず、そして、そこからの展開にも衝撃だったんですが、その萌えアニメという部分も全部が振りだったという。。。サンライズさんが萌えアニメを作ると結局やっぱこうなるんだ〜みたいな印象だったですよね。

小原正和さん

まあ今は立派に『ラブライブ!』とか『アイカツ!』とか作ってる、堂々たる萌えアニメ会社ですけどね。今から思えば、(『舞-HiME』は)将来的にここから要らないところが落ちて行って、何らかのジャンルに収斂されるまでの過渡期的な作品だったかもしれませんね。

仕掛け番長

ちなみに、アニメとマンガで内容が大きく変わったっていうところをお聞きしても良いですか?

小原正和さん

実は、マンガは一切絡んでないんで、全然分かんないですね。設定は一貫してるみたいですが。

仕掛け番長

マンガは、そもそもチャイルドが鍵と呼ばれる男性がいないと呼べないとか、男目線になっていて、結構意外だったんです。

仕掛け番長

このあとに、手法として、スターシステムとして、キャラが全く違うキャラクターを演じるみたいなところに繋がっていったんで、そういったことを入れたのかと思ったんですよ。

小原正和さん

キャラクターシステムは、久行さんが独自に以前から続けていたものなんです。それをオフィシャルに企画として取り込んだのが『舞-乙HiME』です。『舞-HiME』のキャラがメインですが、(同じく久行さんがキャラクターデザインを手掛けた)『サイバーフォーミュラ』や『GEAR戦士電童』のキャラも居ますよ。

仕掛け番長

スゴイ混乱したんですよね、『舞-乙HiME』とか、逆にすごい衝撃でしたが勝手に色々考えました。何年後かにこういうことが起きたんじゃないかとか、勝手に想像してました。
しかも、「舞-HiME」の最終話に「舞-乙HiME」のキャラが一瞬だけですが、出てきたりとか。

小原正和さん

『舞-HiME』が何だかんだで結構シビアな(話の)印象が強かったので、『舞-乙HiME』は明るめの自己実現のストーリーになりました。それでも、時代の雰囲気で、ちょっと内罰的な終わり方にしてしまったので、続編OVAの『Zwei』では、正面からスーパーマン型のヒーロー話にしました。考えてみると、『舞-HiME』で不幸になったキャラクター達を、2作品かけて救済するという・・・。作り手としての自分たちにも、結構深く刺さってるって事ですね。

仕掛け番長

そうですよね。やっぱり、『舞-HiME』が一番印象には残っていて、なんかすごく暗さとか人の内面にスポットをあてている感じが強いですよね。

仕掛け番長

舞衣が弟の事に悩んでるところで、あの依存みたいなところとか、内面の書き方とかも本気の本気で、その辛さを書き切ったって感じがあったんですよね。アニメでここまでするか?みたいな。

小原正和さん

前半は、なるべく話にバリエーションを付けようとしていました。その中の一環として、泣き話が無かったので、吉野さんと「よし、舞衣を泣かそう」と・・・。こういう話も含めて、後半のドロドロ展開といい、この手の第一稿を上げて、シナリオ打ちに来る吉野さんのニコニコ嬉しそうな感じは今でも憶えています。

仕掛け番長

そんな中で、小原監督が特に印象に残っている展開ってありますか?

小原正和さん

やっぱり第一話です。改めて見直したんですが、ここに後半の展開も含めて、作品の要素が全部入ってるんですね。でも何というか、もう~~、色々初々し過ぎて、「うぎゃあああああーーーーーーっ」て感じですね。いつか、僕と久行さんと吉野さんで「一話を観て悲鳴を上げる会」をやりたいですね。三人それぞれ悲鳴を上げるポイントは違うと思うんですけど、客観的に見てる方としては、滅茶苦茶面白いと思いますよ。

小原正和さん

後は、17話ですかね。学園に某外国企業の私設軍隊が攻めてきて、そこを一致団結して「HiME戦隊」として、抗戦するような展開で、前半フェイクの頂点回ですが、やっぱり人間、フェイクとかワルい事してる時の方が、モチベーション上がるじゃないですか?

仕掛け番長

ファンタジーとしては、ありえない展開でしたよね。心の葛藤と同時に来るっていう、あれですよね。もう視聴者も、どんどん追い詰められていくっていう!

仕掛け番長

ありがとうございます。続いては、今回、「サンライズ矢立文庫大賞2019」では、『舞-HiME』の1.5次創作(スピンオフ)を募集するというコンテストなってるんですけれども、ここにどんな作品が投稿されたら、嬉しいとかありますでしょうか?

小原正和さん

ファンの皆さんの方が、当時作り手だった僕らより、よっぽど作品を理解して、愛でて貰ってると思います。もはや『舞-HiME』は作り手だけの物にあらず、ファンの皆さんの物でもあるんですね。

 

 

小原正和さん

どんな作品がと言えば、誰かに「風華大戦」の原作を書いて欲しいですね。二万年後に公開が迫っているんですけど、こちらはまだ何も手が付いていないので。

小原正和さん

作品で必要とされる、細かい要素は、『舞-HiME』『舞-HiME』『Zwei』のDVDやBDとかの特典映像などに散らしてあるので、探してみてください。二万年後なんてボーーッとしてたら、あっという間ですからね。頑張って下さいよ、皆さん!

仕掛け番長

これを読んで書いてもらいたいですね!この記事を読んだ方、全員、各作品を見返して書いてもらえそうですね!(笑)

仕掛け番長

『舞-HiME』は、いろんな要素として、もしかしたら、すごく書きやすい作品かもしれないんですね。前半・後半の内容どちらでも書けますし、また、キャラクター一人一人にあてたものを書いても一人一人に本当にちゃんと属性がついてるんで。

小原正和さん

そうかもしれませんね。僕はもうかなり忘れてるんですが・・。

仕掛け番長

15周年ですけど、ぱっと思い出せますよ!!
ありがとうございます!最後に、記事を読んでいるファンの方に、メッセージをお願いします!

小原正和さん

お久しぶりです。これからも作品を覚えていてくれたら光栄です。今後とも、よろしくお願いします!

仕掛け番長

本日は、ありがとうございました!!

『舞-HiME』は、サンライズフェスティバル2019にて、レイトショーが決定しており、この度、インタビューにおこたえ頂きました小原正和監督もゲストでご出演予定です。こちらも是非、ご確認ください。

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